【書籍】「NHK「100分de名著」ブックス サルトル 実存主義とは何か」

人生観

本のざっくり要点

本著は、フランスの哲学者、小説家、劇作家である、ジャン・ポール・サルトル(1905年~1980年)の書籍や人生に触れながら、彼の思想である「実存主義」を紹介しています。

実存主義とは、「人間の本質はあらかじめ決められておらず、実存(現実に存在すること)が先行した存在である。だからこそ、人間は自ら世界を意味づけ行為を選び取り、自分自身で意味を生み出さなければならない」という思想です。

読み終えてみて

感想

この本はアマゾンで「自由」「哲学」というキーワードで検索して見つけました。期待通り、自由とは何か、生きるとは何か、という答えの一つが提示されており、楽しく読むことが出来ました。普段生活する中で漠然と感じていたことが、サルトル独自の感受性で解釈/文章化されており、感銘を受けました。

NHKの要約版ともあって、どちらかというと入門書的な内容なのだと思いますが、私のような「サルトルという人をこの本で初めて知った」、というような初心者にとっては十分に楽しめる本でした。

最終章はこの本の作者の海老坂 武さんが、東日本大震災に関連する出来事等に沿って、サルトルの思想を近代の出来事に落とし込む章となります。個人的にこの章は読者の思想によって賛否両論分かれる内容かと思い、比較的「否」側だった自分としては蛇足感を感じてしまいました。

「自由の刑」という気づき

実存主義では、世界や人間を、放っておいたら勝手に出てきた偶然の産物、とします。なので、人間には固定された人間性は存在しません。これは言い換えれば、存在意義が無いという状態だと思います。

サルトルの著書「嘔吐」の中では、主人公のロカンタンが、木の根や水たまりのような、ただ存在しているだけの物、また、他人から説かれた「人は愛するべきものだ」という価値観に対して、突然強い吐き気を覚えます。一方、ある日、黒人女性のシンガーの歌を聴いた時、晴れやかな気持ちになります。

ロカンタンは、偶然ただ存在している木の根とか、他人から押し付けられた価値観に対して、自身の存在意義が脅かされる恐怖を感じたのでは無いかと思います。自分もただ偶然生きて偶然死ぬのだという、自分の人生をコントロール出来ない現実を突きつけられることへの恐怖です。

一方、黒人女性のシンガーの歌は、彼女が自分で始まりと終わりを定め、能動的に表現しているものです。これを聞いた時に、ロカンタンは偶然の反対の必然、つまり人間が自分で行動を選択し、存在意義を勝ち取っている希望を感じたのではと思いました。

人間は自分で考えて行動し続けなければ、存在意義も感じぬまま偶然に死んでいってしまう。逆を返せば、能動的に行動すれば、「自由」に自分の欲するままの存在意義を獲得することが出来る。だけど、自分の行動に責任を持ち、常に能動的に動き続けることには常に不安や責任が伴う。この不安や責任と向き合い続け、自由を追求し続ける人間の本質を、サルトルは「自由の刑」と表現します

アンガジュマン -主体性を持つことの大事さ

アンガジュマンには、自分を拘束する、巻き込む、参加させる、という意味合いがあります。戦時中に徴兵され捕虜となったサルトルは、まさに自身が戦争にアンガジェされたのです。戦争に巻き込まれて思想までも奪われかねない状況にあったサルトルでしたが、ここにも実存主義の思想を当てはめます。

戦争など周りの環境に自分がまきこまれた時は、受動的に状況に飲まれるのではなく、自分の意思でその状況に自分をまきこみ、拘束しようと考えます。サルトルは植民地反対などの社会的弱者の支援をテーマに、著書や講演などで戦争中も戦後も、与えられた状況の中で自分が正しいと思う行動を重ねました。

自分が置かれた環境が気に入らないからといって、その環境に不満を言う生活を何年も続けていては、その数年間に対して自分が自分に存在意義を見出すことは難しいと思います。環境は環境として受け入れた上で、では自分はどうしたいのか、どう行動したいのか、という声に耳を傾け、主体的に動くことが大事なのだと感じました。

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